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私、フィギュアスケート、ユヅル、ユヅリーテ

 イタリアフォーラムでも時々コメントしている
 アリアンナ・フランザンさんのエッセイです。
 アリアンナさんは高等学校で教鞭を執る傍ら、これまでに小説やエッセイを
 何作も発表しています。
 このエッセイはアリアンナさんの著書を出版している出版社、
 Priamo社のホームページに掲載されました(ミラノ在住さんより)

 ※イタリアフォーラムのアリアンナさんがエッセイを書いた本を
 ミラノ在住さんが翻訳してくださいました。
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 「私、フィギュアスケート、ユヅル、ユヅリーテ」Image may be NSFW.
Clik here to view.

 アリアンナ・フランザン著(原文はこちらになります)

 認めましょう、私は病気・・・そう、病気なのです!!!
 お願い、誰か私を助けて!!!

 断っておきますが、説明するのは容易なことではありません。

 第一に皆さんは私を知らないし、第二に皆さんはこのエピソードの
 背景を何も知らないのですから。
 勿論、私は誰も怒らせたくはないけれど、私が苦しんでいるこの病を
 理解するにはある程度の予備知識が必要です
 もし『フィギュアスケート』と呼ばれるスポーツを実践したことがないなら、
 想像してみて下さい。
 
 始める否や、不可能だと思い知らされるスポーツ。

 スケート靴を履いて、動きながら片足でターンし、片足だけ、
 いいえ、それどころか片方のスケート靴だけで着氷して、体勢を崩さずに
 立っているなんて絶対に無理でしょう!

 父は私にいつもこう言っていました。

 「お前が空中に跳び上がったところを写真に撮って、先生に送るよ。
  彼女にはその直後にお前が転倒してリンクから転がり出たなんて分からないだろう」

 (愉快な父でしょう?)

 でも私は最初の挑戦でパッと立って着氷することが出来たのです。
 その時は簡単でした・・・何故だか説明することは出来ないけれど!
 私は完璧に半回転して、氷に全く穴をあけずに着氷して造詣美術のような
 ポーズを決めることが出来たのです!

 そして自分自身に言いました、私はチャンピオンになると!!

 こうして私はコーチの元でトレーニングを受けることになりました。
 当時、私はコーチをマエストラ(マエストロ=師匠の女性形)と呼んでいました。
 だって子供はコーチのことをマエストロと呼ぶものだと思っていたから。

 「マエストラ、マエストラ、出来たわ!!!」

 この時、確かに私は歓喜のあまり地に足が付いていませんでした。
 この瞬間、大腿骨を砕く可能性のある武器が足元にあることを忘れていたのです。
 私はブレードを完璧に操り、チャンピオンだけがするようにターンしながら

 (この時の私は完全にチャンピオンになったつもりでした)

 コーチに近づいて行きました。

 コーチは寛大な眼差しで私を見つめながら

 「ブラボー、ブラボー!!!」と言いました。

 だって子供は常に勇気づけなければならないでしょう?
 責任は重大です。
 その子供が自信を喪失して成長するかもしれないし、思春期に問題を
 抱えるかもしれないし、適応出来ない大人になってしまうかもしれない
 私の方は子供らしい態度で彼女を見つめながら、こんな風に思っていました。

 「バカな子供にように私を扱ってくれて結構よ。
  あなたは自分にいるのが誰か分かってないのよ。

  今に開いた口が塞がらなくなるわよ。
  あなたが今までに見たこともないような最高の3連続ジャンプを
  見せてあげるから!」

 私は既にコーチが両親に駆け寄り

 「この少女は神童です!フィギュアスケートのレッスンを無料で
  提供させて下さい。私が送り迎えもします。
  彼女を育て、共に世界を征服します!」と懇願する姿を思い描いていました。

 こうして私はエンジン全開で発進し、助走を始めました。
 大いなる瞬間で、私は史上誰も成し遂げたことのないようなジャンプを
 跳べると確信してました。実際に、ほら、3連続ジャンプよ。
 最初のジャンプを空中で完璧に半回転してしっかりと着氷し、2つ目も
 悠々と美しく・・・そして片足を引いてもう1回転!
 
 私は得意になっていたけど、度を越してはいませんでした・・・
 最終的に私はチャンピオンになったつもりでいました。
 私はいつも物事が全て簡単に行くと思っていたのです。

 そして、人々が「彼女がやると何て簡単に見えるんだ」と
 話しているに違いないと思っていました。
 そう、天才は常に謙虚でなければなりません!
 でも私の『マエストラ』の言葉は、私がこの15分間で膨らませた
 自信を打ち砕きました。
 彼女は自分が教育的ダメージを招いていることを少しも自覚せずに
 こう言ったのです。

 「ブラボー!(当然、これは一応言いました)・・・
  でも逆の足を使うのよ・・・左足ではなく右足で跳ぶの」

 微笑を浮かべながら そう、憎たらしい微笑を!!!
 それで私は考えて、彼女が言ったようにジャンプを跳んでみました。

 結果は・・・大惨事

 まるで宇宙飛行船用の重力発生装置が付いているような気分でした。
 酷く転倒して氷上に倒れたのです。私のキャリアは崩壊しました。
 一体何が起こったのでしょう? ただ単に私は左利きだったのです。
 そして、コーチは私が彼女の言う通りに跳ぶべきだと考えていました。
 でも彼女は私に普段どちらの手で字を書くか尋ねるべきだったのです!

 それからの数か月間、完全な左利きの私が右から跳べるように身体を
 適応させるためにどれほど努力したか想像してみて下さい。
 まるでカロリーナ・コストナーのように。

 そう、私は左利きで、右足でジャンプを跳ばなければなりませんでした。
 カロリーナ・コストナーに今とは逆の足でジャンプを跳べと言えると
 思いますか? 融通の利かないマエストラ!

 おそらくこのために、私は幼少時代をこのひねくれたジャンプと
 格闘しながら過ごしたのです。
 毎回毎回まるで崖から飛び降りるようだと思いながら
 今考えると私は病気だったのでしょうか?
 いいえ、いいえ、そんなことはありません。

 17歳の時、私は断腸の思いでフィギュアスケートと決別し、
 モダンバレエに打ち込むことにしました。モダンバレエでは左右の
 区別はそれほど重要ではありませんでしたから

 ターンは左右両方から回らなければならなかったし、フリーレッグは
 更に馬鹿げたポジション(皆は芸術と呼んでいるけれど)で
 維持しなければなりませんでした。そして全てがうまく行きました。

 私は普通の人、フィギュアスケートに対して少々うるさいことは
 認めますが、それでもあくまでも正常な人間でした。
 
 今でもはっきりと記憶に刻みこまれているあの日の、

 あの瞬間までは・・・

 2012年3月30日、テレビではフィギュアスケート世界選手権の
 男子の試合を放送していました。

 私はかなり上の空で見ていました。

 告白すると、当時かなり嵌っていたiPhonのゲームをしながら

 見ていたのです。

 でも・・・しばらくしてリンクに17歳の日本人の
 少年が出てきました。

 17歳、それはまさに私が栄光への夢を永久に断念した年齢でした。

 そしてこの瞬間、私はフィギュアスケートとは何かを
 はっきり知ったのです。

 全てが氷上で起こる・・・
 白く、滑らかで、同時に魂を削る音をさせるあのブレードによって
 溝が刻まれたあの氷で・・・

 彼は炎でした。自らの火焔を包み込んだ吠える炎・・・

 純粋なエレガンスと力と優美さとパワーを突如目の当たりにした
 自覚のない哀れな視聴者達はどうなったのか・・・

 全てが一緒くたに、一度に起こったのです。

 私には強過ぎました・・・そして、皆にとっても強過ぎました。

 全く予期していなかったまるで神話のような体験。

 テレビに釘付けになった私の両目は、

 このようなことを実際に目撃していることが信じられませんでした。

 私はずっと私の夢、それも私が夜ベッドの中で、あるいはリンクを
 独りで滑りながら見ていた本物の夢の中だけで起こっていたことを
 ようやく現実に見たのです。

 そう、滑る喜びを噛みしめながら微笑み、

 「もし天国が存在するなら、私はこれが全部欲しい」と
 
 叫びながら、まるで空を飛んでいるような感覚で全く力を入れずに、
 これほど滑らかに美しく滑走している夢
 
 それが彼でした。

 未だかつて一度も・・・そう、一度も見たことがないもの・・・

 それが彼だったのです。

 分かりますか?

 私はまるで病んだ人間のように語っているでしょう?

 でも私はそういうタイプの人間ではないのです。
 どちらかというと冷めた反ロマンチストで、気取ることが
 大嫌いな人間・・・
 それなのに・・・今、こんな風に彼のことを話している!!!

 彼は私に一体何をしたのでしょう?
 何を???

 私は何故、今、ここで、こんなことを徒然と書いているのでしょう???

 ユヅル・ハニュウ

 (私達のヒーローはこういう名前でした)

 は、あの有名な2012年3月30日の後、オリンピックチャンピオンと
 世界王者になり、グランプリファイナルでは4連覇を果たし、
 自国のアイドル、そして人類の伝説になりました。

 もはや彼を適切に評価出来る得点は存在しません。
 それどころか、彼のせいでおそらく次のオリンピックの後、
 採点システムが見直されることになるほどなのです。

 宇宙人、彼しか住人がいない惑星の唯一の住人、
 ホログラム、キングと定義され、今では彼が世界中のアイスアリーナ
 にやってくる度に、
 日本式のお辞儀をまるで神の恵みのようにファン達に広めています。

 そして今、少し前に2017年の世界選手権が閉幕し、
 ユヅルは史上最高のプログラムを滑りました。

 そして、それからの1週間というもの、私は毎朝、耳の奥で
 彼の音楽を聴き、目の奥で彼の4回転ジャンプが見ながら目覚め、
 道を歩けば、無数のミニユヅ君が私の周りをまるで星が煌めくように
 飛び跳ねているのです。

 ですから、私がここで、こうして筆を執っていることは
 ごく普通のことなのです。

 何故なら書くことだけが、私に出来るおそらく唯一のセラピーなのだから

 そして大袈裟な感情表現を全て使い尽くした今・・・
 精神錯乱状態の中で私はこんな考えに至ったのです。

 可哀想な私・・・

 私は3連続ジャンプでチャンピオンになるつもりでいたけれど、
 最終的に、私がこのスポーツに関わったのは、

 将来、この超人的存在を知り、彼が実施していることの難度、
 壮大なジャンプ、魔法のようなトランジションが如何に凄いことなのかを
 理解するためだったのだと

 偶然は存在しない、これは運命でした。

 私はこの運命に感謝し、今、生きていること、そしてこの氷の精霊が
 滑る姿を見ることが出来ることに感謝します。

 アリアンナ・フランザン
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 アリアンナ様、素晴らしいエッセー読ませていただき光栄です。
 翻訳してくださったミラノ在住さん感謝いたします。

 日本人ファンが知る日本人の羽生選手と、海外のファンが知るゆづ君との
 違い・・ある部分では共通なものはあると思いますが
 異国であるという想いは・・さらに哀愁を感じさせるところがありますね。
 日本人だとゆづ君の振る舞いなど暗黙で理解できるところがあるけれど
 海外の方は未知で・・空想が広がったり・・エキゾチックに感じたり
 想いは倍増する感じもします。だけれど先入観がないせいか
 スポンと的確な綺麗な(詩的な)表現をぴたりと言い当てたり・・
 そんな事が出来る凄さが海外の方に多いですね!!!よく見てる・・というか。

 アリアンナさんの純粋な心・・そして楽しそうな日々・・
 何か素晴らしいものを見つけて幸せを感じてる日常を思い浮かべました。
 生きてる事の喜び・・それを感じさせてくれる羽生選手。
 アリアンナさんと共にありがとうございました。

 翻訳してくださったミラノ在住さんの本家のブログ
 「惑星ハニューにようこそ
 
 こちらはイタリアーフォラム、イタリア誌の翻訳
 宝の宝庫のブログです。
 是非こちらでも改めてご覧になってください。
 ミラノ在住さん、ご紹介ありがとうございました。Image may be NSFW.
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 今日は仙台でゆづ君と荒川さんのモニュメントがあります。
 午後からその様子が見られるので楽しみです。
 こちらになります。
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